TOP 2003.10 VOL.80
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新国立劇場バレエ 新シーズン開幕
文 高柳裕史◎本誌編集部 text by Hiroshi TAKAYANAGI
 

十月三日から三日間の日程で行われたガラ公演「THE CHIC」で、
新国立劇場のバレエ二〇〇三/〇四シーズンの幕が開いた。
ソリスト陣による華麗なパ・ド・ドゥ集や、新制作されたスペインの俊英
ナチョ・ドゥアトの初期の代表作「JARDI TANCAT」など
多彩なプログラムに会場は沸いたが、
その一方でバレエ団もいよいよ結成から六年目のシーズンへ突入。
その真価がますます問われていく中、牧阿佐美舞踊芸術監督を中心に
さらなる飛躍をめざすべく奮闘中だ。

 日本における舞台芸術の新たな創造の場として新国立劇場が開場したのは一九九七年秋のこと。新国立劇場バレエ団も同年十月の開場記念公演「眠れる森の美女」で華々しくスタートを切り、毎シーズン五〜六演目をコンスタントに上演、多くのバレエファンの目を楽しませてきた。演目も古典から、ケネス・マクミランやローラン・プティといった現代を代表する振付家による全幕物、さらに国内外で活躍する日本人振付家による新作まで多岐にわたり、節目となる五年目のシーズンを終えた今夏の時点で二十七本のレパートリーを抱えるまでとなった。
 「結成から今日までのバレエ団の成長には目を見張るものがありました」と語るのは、牧阿佐美舞踊芸術監督だ。「結成当時はプロとして踊っていたダンサーはメンバー全体の一部で、右も左も分からない中、最初は歩き方から始めなければなりませんでした」と振り返るが、今では日本を代表するバレエ団としての地位を確立。特に息の合ったコール・ド・バレエの美しさは、世界屈指のレベルと高い評価を受けている。
 その急成長の秘密として、国立劇場のバレエ団なのになぜもっと日本人ダンサーを起用しないのかとの批判の声もあがる中、公演毎に海外から招いてきた外国人ゲストダンサーから学ぶものが多かったと話す牧監督。「ただダンサーとしてだけ優秀な人ではなく、舞台人として優れているダンサーを招聘してきました。そんな経験豊富で世界的なダンサーの姿を目の当たりにすることによってそこから多くのものを吸収し、ここまで急激なスピードで成長できたと考えています。日本人だけで活動していたら、今のレベルにたどり着くのにあと二十年はかかっていたと思います」とその成果に胸を張る。
 そんな中、これまで培ってきたものを総動員して挑むのが、今シーズンのハイライトとして十月末に初日を迎える「マノン」の公演だ。スコットランド出身の二十世紀を代表する振付家ケネス・マクミラン(一九二九〜九二)が、当時芸術監督を務めていた英国ロイヤルバレエで一九七四年に発表した全三幕のグランド・バレエで、同名オペラの作曲で知られるフランスの作曲家ジュール・マスネの音楽を編曲したものが使われている。非常に高度な技術と表現力が求められ、世界の名だたるバレエ団だけがレパートリーとしてきた難しい作品だ。
 「プロとして常に新しい目標に向かって取り組まないと進化はありません。一つの大きな作品を仕上げてこそ、それぞれが一人のアーティストとして成長するのです。今だからできる、今こそやるべき作品だと思いました」と牧監督。その熱の入れようは、「THE CHIC」の本番当日にもリハーサルが行われる程だ。また、今シーズンは続けて、「シンデレラ」、「こうもり」、「ロメオとジュリエット」、「眠れる森の美女」とグランド・バレエを四本ぶつけた。
 「年末年始には『シンデレラ』と昨シーズンの開幕を飾り好評を博したローラン・プティ振付の『こうもり』を交互に上演していきます。これは、バレエ団にとっては初の試みです。また、『マノン』に引き続いてのマクミラン作品となる『ロメオとジュリエット』は再演で、前回よりもさらに表現を高めていければと思います。そして最後は、クラシックバレエの最高峰で久しぶりの再演となる『眠れる森の美女』で締めくくるといった感じです」。
 また、今シーズンから新たな試みとして、シーズンゲストダンサーというポストを設けた。そのトップバッターに選ばれたのは、サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場でソリストなどを務めてきたデニス・マトヴィエンコ。二〇〇〇年に「ドン・キホーテ」に客演して以来の常連で、日本にもファンが多い”イケメン“だ。
 また、オペラ部門との初の共同制作に挑戦することになる「スペインの燦き」も注目を集めている。ラヴェルのオペラ「スペインの時」に、「ダフニスとクロエ」や「ボレロ」といったバレエを組み合わせ新しい舞台芸術の創造をめざすもので、ダンサー、振付家、さらには俳優、現代アートへの取り組みなどジャンルを超えた活動で知られるニコラ・ムシンが演出・振付を担当する。イタリアのファッションブランド「ブルガリ」のデザイナーであるダヴィデ・ピッツィゴーニが美術・衣裳を手掛けることも話題だ。
 その一方で、劇場は興業の場であると同時に人を育てる場でもあると、二〇〇一年四月からは、牧監督を所長とした新国立劇場バレエ研修所も発足させた。今後の日本のバレエ界のみならず、世界的な活躍が期待される若き逸材たちが切磋琢磨の日々を過ごしている。
 研修期間は二年間でその内容も多岐にわたる。クラシカル・バレエ、キャラクテルやコンテンポラリー・ダンスのレッスンに語学研修、バレエ史やバレエ音楽についての講義などはもちろんのこと、さらにユニークなのが演劇の研修。セリフの意味について考えることによって、自分が今踊っている振付の意味を考える習慣になればとのアイデアによるもの。題材にはシェイクスピアなどが取り上げられている。
 そして、様々なジャンルの人と出会い話をすることによって、より幅広い知識と会話による自己表現力を付けてもらおうと設けられた「サロン」。加えて、マナーを学ぶための茶道の時間もあるという。
 牧監督は「私一人がお説教するより、様々な方のアドバイスがあった方が研修生たちも受け入れやすいでしょうから(笑い)。とにかく、ダンサーを育てるというより、一人前の立派な人間を育てるということを念頭においてカリキュラムを組んでいます。人間性がしっかりしていない人が、何万人ものお客様を感動させることはできない」と、強く言葉を結ぶ。
 今春に卒業した一期生七人は現在、さいとう美帆と本島美和がソリスト、伊藤友季子、宇地原舞依が登録ソリスト、今村恵、葛岡絵美、田中若子がコール・ド・バレエとして、新国立劇場バレエ団での活動を開始している。四月からは二期生八人が新たに入所、目まぐるしい毎日を送っている。
 今後の新国立劇場バレエ団のあり方について牧監督は、「日々の忙しい中、新国立劇場に行ってバレエを観れば心が癒される、そんな存在になれればいいですね。より多くの方に、特に男性の方にもっと劇場に足を運んで頂けるようになればと。また、将来的には若い人に向けてのゲネプロ(本番前の総稽古)の公開なども検討できればと考えています」と夢を膨らませる。
 その一方で、「国内での評価は高まりましたが、海外での認知度という点ではまだまだです。パリ・オペラ座バレエや英国ロイヤルバレエなど、バレエファンなら誰もが一度は訪れたいと思うような存在をめざさなくてはなりません。東京を訪れたら新国立劇場バレエ団を観なさいといって頂けるようなバレエ団です。また、世界的な人材不足が叫ばれる中、世界中のバレエ団から出演を依頼されるようなソリストの育成、振付家の育成、さらにコール・ド・バレエもより深い表現力を磨いていかなければなりません。やるべきことは、まだまだ山積なんです」。

1999/2000シーズンから舞踊部門の芸術監督を務めている牧阿佐美
003/04シーズンの開幕公演「THE CHIC」では、スペイン気鋭の振付家ナチョ・ドゥアト初期の代表作「ジャルディ・タンカート」が上演された
「THE CHIC」で「ジゼル」を踊る小嶋直也とさいとう美帆。さいとうは新国立劇場バレエ研修所の第1期卒業生 
間もなく初演が行われるケネス・マクミラン振付による「マノン」。壮大なスケールと繊細な美しさを兼ね備えた20世紀を代表するグランド・バレエの大作に総力を結集して挑む 
昨シーズンの開幕公演で、大人のオシャレなバレエと好評を博したローラン・プティ振付の「こうもり」も待望の再演となる
上演を間近に控えた「マノン」の稽古風景。難易度の高い作品だけに稽古に臨む出演者たちの表情も真剣そのものだ
複雑なステップで知られるマクミランの振付に挑むダンサーたち。稽古場はしだいに熱気を帯びていく
マクミラン版「ロメオとジュリエット」。2001年に行われた初演では重厚なドラマ性を見事に表現した
開場以来、多くの作品で主役を務め、そのドラマチックな表現に定評のある酒井はな。今充実の時を迎えている
1997年の開場記念公演でも上演された壮大なグランド・バレエ「眠れる森の美女」で今シーズンは幕を閉じる
来年5月には、2001年に上演され好評を博した伊藤キムの「Close the door,open your mouth」が再演される
現代舞踊ではこの秋、フランスのヌーベルダンスを代表するカンパニー、バレエ・プレルジョカージュを招聘。2001年に初演され、ヨーロッパ各地で高い評価を受けた「ヘリコプター」と「春の祭典」の2作品が上演される
001年に発足した新国立劇場バレエ研修所の公開レッスンの様子
バレエのレッスンに留まらず、語学、教養など様々なカリキュラムが組まれているバレエ研修所。自らの身体と心の調和を図るためのボディ・コンディショニングもその一環だ。公開レッスンでの一こま
  新国立劇場バレエ、新シーズン開幕

東京フィルハーモニー交響楽団
アジアツアー2003

8月24日(日)〜9月1日(月)

指揮&ピアノ:チョン・ミョンフン
ヴァイオリン:樫本大進 チェロ:趙静(チョウ・チン) ピアノ:ペク・ヘソン

■シンガポール公演
8月26日(火)エスプラネード
ベートーヴェン:ピアノ、ヴァイオリン、チェロのための3重協奏曲/ ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」

8月27日(水)エスプラネード
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲/ マーラー:交響曲第1番「巨人」

■プサン公演
8月29日(金)プサン文化センター
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番/ マーラー:交響曲第1番「巨人」

■テグ公演
8月30日(土)慶北大学校
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番/ マーラー:交響曲第1番「巨人」

■ソウル公演
8月31日(日)ソウル「芸術の殿堂」
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番/ マーラー:交響曲第1番「巨人」

   
 
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